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リクルートスーツで、立ち呑み屋に現れた就活女子。

立ち呑み屋に現れた就活女子

とある立ち呑み屋。

そこは知る人ぞ知る名店で、

酒とウマいものにうるさいオジサンたちが昼下がりから杯を傾けていた。

そんな店に、意外すぎる客人が現れた。

 

リクルートスーツ姿の女子大学生だ。

彼女は入口の扉をあけて、ちらりと中の様子を伺うと躊躇なくカウンターへ。

おしぼりを受け取りながら、本日のおすすめを品定めするしぐさは堂に入っている。

 

うっすら茶色がかったショートボブは今風ながら清潔感があって、

彼女の丸っこい童顔によく似合っていた。

思わず免許証を出せとツッコミを入れたくなるような年格好。

どこからどう見ても就活生である。

 

見た目に似合わず、彼女はしょっぱなから冷酒をオーダーした。

ついでに看板メニューのおばんざい盛りも注文する。

一連の動きで、呑みなれていることはすぐわかった。

なかなかのひとり呑み上級者に違いない。

 

店内のオジサンたちは、見慣れない珍客に興味津々のご様子。

 

女子大生が運ばれてきた冷酒をキュッとやり、

ふぅと一息ついたところを見計らってオジサンが話しかける。

 

「お嬢さん就活生か?」

 

「そうです」と大学生。

 

彼女曰く、午前中に会社説明会にきており、昼からは予定がないからその足で店にきた。

おいしいお店を巡るのが好きで、せっかく近くに来たから寄ってみたとのこと。

 

よくできた面接のやりとりのようだった。

質問はたった一言なのに、相手が聞きたかったであろう話がスラスラと全部出た。

 

説明会の帰りに飲酒とは不謹慎に思えるが、

それを良しとさせる不思議な魅力が彼女にはあった。

 

たぶん、店内の客全員がそう感じていたのだろう。

フレンドリーに話す彼女の様子に安心したオジサンたちが、次々に会話に参加しはじめる。

 

 

 

「志望業界はどこなの?」

 

これまたストレートな質問だが、彼女は躊躇なく答えた。

 

「商社か金融かで迷ってます」

 

すかさず別のオジサンが質問する。

 

「今日はどこの説明会行ってたの?」

 

志望は商社か金融と言っておきながら、

なんと今日はメーカーの説明会に参加していたらしい。

 

なんだ軸がブレブレじゃないか。

 

でも不思議と、「こいつダメだな」とは思わない。

 

彼女の軽妙な話しぶりが、そう思わせないだけの地頭の良さを漂わせていたからだろうか。

 

これまで黙ってニコニコしていたオジサンが、核心に迫る質問をした。

 

「大学はどこなの?」

 

「〇〇大学です」

 

なるほど。

そりゃ優秀なわけだ。

 

「ほぉ頭いいんだねぇ」

 

なーんて定番のよいしょに対する対応も慣れたものだった。

まったく卒がない。

 

オジサンたちは答え合わせに満足したのか、その後は終始和やかに雑談に華が咲いた。

最近できたばかりの美味しい店の話。好きなお酒の話。

よくある意識高めの居酒屋トークだ。

 

時間にすれば、小一時間ほどだろうか。

 

「じゃあ、そろそろ失礼しますね」

 

彼女がお会計をはじめる。

 

すると、一番最初に彼女に話しかけたオジサンが、

鞄から名刺を取り出して彼女に差し出した。

 

 

 

なんと、某大手企業のそこそこ偉いさんである。

 

「エントリーとか大丈夫だから、ぜひうちに面接にきてよ」

 

おー、と周囲が驚く間もなく、せきを切ったかのようにオジサンたちが名刺を渡し始める。

次々と差し出される名刺は、どれもこれも就活生が憧れる一流企業ばかり。

 

そういえば酔っ払いのオジサンたち。

下品な話のひとつもせず、終始行儀よく飲んでいたと思ったら…。

なんてことはない。みなさん完全に「狩り」モードに入っていたのである。

 

ものの数分で、彼女の手元には名だたる企業の名刺が集まった。

平社員ではない。いずれも役職者ばかりである。

ご利益、もとい効力がありそうだ。

 

ありがとうございます、とにこやかに一礼して、

ゆったりとした足取りで女子大生は店を出て行った。

 

思わぬ優秀学生の降臨が肴となり、

その後、オジサンたちの酒が大いにすすんだことは言うまでもない。

 

あれからもう数年経つが、彼女はいまどこで働いているのだろうか。

立ち呑み屋での出来事を思い出すたびに、就活の不条理さ、不公平さを想う。

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