レンタルビデオ店で長時間ウロウロしている大人たちは、出会いを求めている。
せっかくのゴールデンウィークなのでちょっと懐かしいものでも、と思い立って、『アリーMY LOVE』を観ていたら、モヤモヤしてきたので書いてみる。
※ドラマの内容とは無関係。長期休暇ならではのアンニュイな話。
学生時代、すこしだけビデオ屋さんで働いたことがある。
そのとき、当時の大人たち(アラサーくらいの人たち)が、借りていくドラマや映画をみて不思議に思っていた。
『アリーMY LOVE』の面白さがイマイチ理解できなかった。
『sex and the city』を借りていく女性がやたら多いのが謎だった。
『24』は退屈すぎて24時間持たずに寝た。
最後のは今でもそう思ってるけど、上の2つは、自分がアラサーになったいま、改めて観てみると、とても面白いと感じる。
もちろんドラマの世界だから現実よりも過激だし、100%共感できるわけじゃない。でも、こうした作品は、人生を前向きに楽しみたい気分にさせてくれる。
ベタな表現をすると、元気をもらえるストーリーが多くて楽しい。
さて、そろそろ本題に入ると、僕がアルバイトしていたときのことで、今でも強烈に記憶していることがある。
それは、先客に借りられていたせいで、ドラマの続きをレンタルすることができずに憤慨したお客さんに、たくさん叱られたことだ。
たかがビデオじゃないか。そんなことで大人が怒るなよって、当時の僕は思ってた。
けっこうな頻度でめんどうごとに巻き込まれたこともあり、そういう続き物のドラマを借りていく大人のことを、すこし嫌いになったりもした。
でも、いま思えば、彼らがイラ立つ気持ちもよくわかる。
一日の終わりに楽しみにしていたドラマ鑑賞ができないのは残念だ。
観ようと思っていたドラマがないと、することがなくなってしまうから。
寝る前の貴重な数時間を無駄にしたような気がして辛いのだ。
仕事終わりにビデオ屋によって、お気に入りのドラマを借りて帰る。
1話か2話観て寝る。あるいは、3話目の途中で眠ってしまい、気付いたら朝、……。
くだらないと思う人もいるかもしれないけれど、家に帰ってやりたいことがあるというのは、とてもハッピーなことだと思う。
心から楽しめる「日課」のようなものを探している人は、案外多いんじゃないだろうか(僕は常に探している)。
ビデオを借りにきた大人たちの表情はよく覚えている。
借りられないと怒る人もいたけど、楽しそうに続きを借りていく人もいた。
ただ、今回僕が思い出したいと感じていたのは、まったく別の表情。
それは、ドラマの最終巻を返しに来たときのお客さんの顔。
感動して泣き腫らしたあとが残っていないか、といった話ではない。
社会人のペースだと、シリーズ物のドラマを完全に観終わるのには何ヶ月もかかる。ドラマが終わると、日々の1話、2話の「日課」も終わってしまう。何ヶ月も続けていた毎日の小さな楽しみがなくなってしまう。
恋人と別れると、週末の予定がなにもなくなってしまうのと同じだ。平日の夜。寝る前の数時間にポッカリと穴ができる。
彼らはどんな顔をして、最終巻の返却にきたのだろう。よく思い出せない。
歳をとって痛烈に感じるのは、駄作を笑って受け入れることは、もはや無理ということだ。時間がもったいない。早く、夢中になれるような次の何かに出会いたいと思う。でも、探す時間はない。
子どもの頃も、作品を観終わってしまうことを残念に感じたけれど、いまの方がより残念に感じている気がする。直前まで観ていた作品がお気に入りであればお気に入りであるほど、これくらい自分にフィットする作品にはそうそう出会えないぞ、と無意識に計算してしまうせいかもしれない。
これは想像でしかないけれど、返却に来た大人たちは、すこし寂しげな表情をしていたのではないだろうか。
そういえば、シリーズを観終わって一区切りついたお客さんから、お勧めの作品を聞かれることも多かった。
当時の僕は『アリーMY LOVE』も『sex and the city』も好きじゃなかったから、他のお客さんの借りているものを参考に、いくつかタイトルを挙げていたような気がする。
ただ、店員のオススメにもいつか限界はやってくる。
そんなにしょっちゅう、分かりやすい良作は出ない。
出たとしても個人の趣味嗜好の壁もある。いまでもそうだから、当時はもっとそうだったろうと思うけど、ネットの評判やいろんなサイトのレコメンドにも限界がある。
消費スピードの方がどうしても早くなってしまう。結果、何を観ればいいかわからなくなる。
当時は何やってんだかと思っていたけど、せわしなく店内を行ったり来たりする大人たちの気持ちが、いまなら分かる。
寝る前の数時間。
仕事の疲れを忘れて夢中になれるような素敵な作品との出会いを、大人たちは求めているのだと思う。
少なくとも僕は、そんな作品に出会えると、とても嬉しい。