就活に関わる人、すべてに配布したい本。
内定童貞。
つい買ってしまった。
リクナビ・マイナビのオープンに合わせた商売っ気満載の発売タイミング。カモられてるなぁと思いつつも「内定童貞」というタイトルに惹かれ、つい手に取ってしまった。
でも、結果的に買って良かった。
すごく良かった。とんでもなく有用。
というか、僕が大学のキャリアセンターで働いていたら、全学生にこの本を配りたいと思うレベル。大学のキャリアセンターは、小綺麗なエントリーシートの書き方を教える暇とコストがあるなら、ただちに全学生にこの本を配るべき、とすら思った。
就活でよく出てくるOB訪問、自己PR、志望動機といったキーワードについて、著者自身が博報堂でリクルーターを担当していた時のエピソードを交えながら解説している点が新鮮でした。生の声だから説得力があります。
世間ではこう言われているけど、現実はこう。
だって、俺がリクルーターやってたときこう思ってたもん。
ってな「実は」話が満載で、これを知った上で就活に望むかどうかは、確実に内定獲得に影響するだろうなぁと。
他にも、
「仕事内容を勝手に想像し、決めつけてしまう学生達」
⇒働いたことない学生が、面接で仕事内容を想像で語り、自分に向いていると勘違いアピールしてしまう
「若手社員の言うことを真に受けない」
⇒若手社員なんて、まだまだ一人でまともに仕事できないヤツばかりで、社内では立場がない。だからその反動で、学生相手にできる社会人を演じてしまう。
「通過した瞬間から面接官は味方になる」
⇒その学生を上の人に通すために、一緒になって戦ってくれる存在。面接官は、落とすために選考するんじゃなくて、上に通せるヤツを探している。
「早めに内定童貞を捨てろ!」
⇒どんなに零細の企業だろうが、一社内定があることで醸し出される余裕は、面接官の目には自信に満ちあふれたポジティブな姿に映る。
などなど、上の要約はザックリすぎるので話半分でお願いしたいですが、とにかく、あらゆる角度から就活にまつわるホントのところが語り尽くされていました。
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読み終えて改めて思ったのは、いまの就活って企業と学生が盛大にすれ違ってるよな、ということ。
で、そのすれ違いを生んでいるのは、体裁、なんだろうなと。
本の中でも書かれていたけれど、たとえば大手広告代理店に面接に来た学生の志望動機なんて、本音を言えば「給与が高い」「女にモテそう」「クリエイターになりたい」「人に自慢できる仕事がしたい」とか、まぁまぁくだらない要素も孕んでいるはずです。
でも実際は、大学時代や子供時代のエピソードと結び付けて、感動的なストーリーを語ったりするわけじゃないですか。そんな茶番は企業側も当然見抜くんだけど、でも企業側も悪くて、あまり意味はないと思いつつも「志望動機は?」みたいな定型の質問をしてしまう。
それに採用サイトやリクナビ・マイナビのサイトには、表向きの美辞麗句を並び立てますよね。企業理念とともに。採用広告を作る僕たちもやはり建前で仕事をしている部分があり、広告案を考えるときの一つのチェック指針として、「この案は企業理念に即しているか」なーんてことを、難しい顔して大真面目にやっているわけです。
そうしないと案が通らないので、決して無意味なことをしているわけでもないんですけどね。担当者の方が社長にプレゼンしやすいとか、まぁ企業によって色々ですが、円滑に事を進める意味では貢献していると思います。
でも、どれもこれも「学生と企業をマッチングさせる」という本来の目的からすれば、実に的外れでくだらないことの積み重ねです。これじゃせっかく内定をもらっても、いざ働き始めてギャップを感じて、イヤになる学生が続出するのも当然だよな、と。就活に関わっている者の一人として、本当に申し訳なく思います。
あと、OB訪問じゃなくても、説明会で先輩社員が登場して学生と話をすることは、いまや当たり前になりつつありますよね。そんなとき、学生からすれば、2~3年目くらいの先輩社員は雲の上の人みたいに見えるそうだけど、本当は全然違います。この本の著者の方もおっしゃってますが、2~3年目なんてまだまだ自分一人では、まともに仕事ができないペーペーです。
僕の知り合いにも「先輩社員役」を任されている人がいますが、そいつを思い出して、あー確かに、と腹落ちしました。雲の上なんてとんでもない。実に普通の人間です。
特別気が利くわけでもない。ミスして怒られることだって多い。寝坊もする。オシャレなカフェでランチなんてする暇もない。空いた時間に牛丼を流し込んで、休憩もほどほどに仕事に追われる日々。ぜんぜんカッコ良いことなんてないです。
本の中にも、アホな面接官の例を挙げて、それを象徴する言葉として「こいつ、クソするよな」とありましたが、就活生の目の前に現れる大人たちは、就活生が思うほどそんなに大人じゃないし、偉人でもない。いつもの自分より、ちょっとデキルように演じているだけの普通の人です。
信じられないなら、繁華街の立ち飲みやでウダウダやってるサラリーマンを見れば一発です。ほんと、くだらない話ばっかりしてますから。
「内定童貞」は、そんな生々しい就活の現実がコミカルに描かれている一冊です。
決して、舐めてかかれ、と言っているわけではありませんが、みんなが思うほど就活なんてたいしたモンじゃないよ、と、背中をポーンッと後押ししてくれる素晴らしい一冊です。