「君の名は。」にハマったなら、新海監督の前作「星を追う子ども」もぜひお勧めしたい。
大ヒットした映画「君の名は。」。
これまで新海監督の作品にふれたことがなかった人で、監督の他の作品にも興味がある人がいたらこの作品もぜひ観てみてほしい。
「君の名は。」は、劇中で何度も琴線を揺さぶられるが、「星を追う子ども」は、エンドロールを眺めながら物語を反芻していると、じわっと心の奥から温かいものがあふれ出てくる、そんな作品だ。
- ラピュタのような、もののけ姫のような
- 大切な人を失っても、人は生き続けなければならない
- 未知の世界に足を踏み入れる高揚感
- ジブリほど純粋ではないからこそ、感じ入るものもある
- 実を言うと、ジブリ映画は大好きだが、泣ける作品には出会ったことがない。
ラピュタのような、もののけ姫のような
この作品は、新海監督がこれまでのベテランアニメ監督たちとは異なる、ニューエイジの作家であることが、とてもわかりやすく感じられる作品でもある。
wikiに新海監督のコメントが転載されているが、
新海曰く、「今回の『星を追う子ども』ではジブリ作品を連想させる部分が確かにあると思うのですが、それはある程度自覚的にやっているという部分もあります」[2]。今作では「日本のアニメの伝統的な作り方で完成させてみる」ことを個人的な目標にしていたという。
wikiより
この作品は、率直に言ってとてもジブリっぽい。
ラピュタの飛行石のようなものがでてくるし、巨神兵のようなものも出てくる。
ナウシカの肩にのっている動物(テトと言うらしい)に似た動物も登場する。
物語終盤では、もののけ姫であったような生命のダイナミズムや神秘性を感じさせる描写も見て取ることができる。
監督自ら「日本のアニメの伝統的な作り方で完成させてみる」とコメントしていたことに頷ける内容となっている。
つまり、ぼくたちユーザーと同様に、ジブリなどのメジャーなアニメを観て育ってきた世代の人が、その文脈を踏まえた上でアニメを作っているのだ(ジブリ作品の他にも、端々に、色んな名作アニメの片鱗を見て取れる)。
こう考えると新海監督のアニメから受けるイメージが、異質でありながら妙に心に収まり良く感じられることにも納得がいくと思う。
大切な人を失っても、人は生き続けなければならない
「星を追う子ども」は、大人が観てもとても面白いが、個人的には、子どもに見てもらいたい作品だとも思う。
ぼくは大人になってからこの作品に出会ってしまったけれど、もしもぼくがいま小学生だったら、きっと一生記憶に残る作品になったのではないか。
人間とはいつか死ぬのだということと、誰かが死んだ後には残された人たちが存在して、残された人は悲しみを乗り越えて生きていかねばならないのだ、という生の苦しみが描かれている。
生々しく現実を描くのではなく、ファンタジックな世界観のなかで死生観がじょうずに処理されているのが、子どもに観てもらいたい理由だ。
ネタバレになるので書かないけれど、もちろん絶望するばかりではないからこそ、子どもにも観てもらいたいと感じることができた。
未知の世界に足を踏み入れる高揚感
物語としての面白さも当然ある。
本作には、イザナギ・イザナミの神話をベースとしたあの世・この世といった世界観が取り入れられており、主人公たちは中盤以降、不思議の世界へと足を踏み入れることになる。
異世界を探索する彼女ら(主人公は十代の女の子)の様子に、単純ながら観ているぼくは心躍った。子どもの頃に「となりのトトロ」を観て感じたドキドキ感を焙煎したようなほろ苦い味わいがあった。
ジブリほど純粋ではないからこそ、感じ入るものもある
ジブリ作品は、眼前にある人物の心の機微や動作が丁寧に描かれる一方で、登場人物のバックグラウンドについては淡白な描かれ方をしていることが多い。
それはそれで説明過多になることを避け、物語を楽しむにあたっての良い影響もあるのだが、星を追う子どもでは、とある主要な登場人物について、その過去が多少なりとも説明されている。
いちいち説明されていることは、作品としての落ち度のようでもあり、大人に伝わりやすくするための仕掛けでもあるような…。
たぶんジブリが上手いのはそこなんだろうなと思いつつも、ぼくは「星を追う子ども」の若干の説明臭さも心地よく感じて、すんなり受け入れられた。
実を言うと、ジブリ映画は大好きだが、泣ける作品には出会ったことがない。
美しい物語と世界観に、ドキドキ、ワクワクするが、どこまでいっても作品と現実とをリンクさせることができない。心の内で上質なファンタジーとして処理される。
それが良くも悪くも、僕のなかでのジブリ作品の傾向だ。
新海監督の作品が違うのはこの点だと感じる。
同じく非現実的な世界ではあるものの、現実とリンクさせるためのセーブポイントのような箇所を、うまいこと作中に織り込んであるような気がするのだ。
アニメを観ながら、大人たちは時折、現実世界にも想いを馳せる。
自分の大好きな人が亡くなったら?
あの世界に自分が行けたとしたら?
とある登場人物の立場だったら何を考え、何を思う?どう行動する?
アニメが触媒となって、現実の色んなことに思いを馳せることができるのは、新海監督作品の魅力だと思う。
ひょっとすると、その意味で言えば「君の名は。」が監督作品のなかで最も現実感の乏しい異色作かもしれない。あれはとてもスカッと泣ける快作だったから。
「星を追う子ども」のほうが「君の名は。」よりも遥かに設定はファンタジックにも関わらず、観終えたあとに余韻がグズグズと燻り続けるねちっこさがある。
ファンタジーのくせに負のオーラがすごいので、シラフで二度は観れないかもしれない。個人的には、酔っ払って多少ぐったりしながら、もう一度観たい作品だ。