「君の名は。」で泣いた若者は「AIR」で泣けるのだろうか。
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若い人の間で「君の名は。」が大ヒットしたが、僕がそのくらいの年齢のときに見て印象に残っているアニメと言えば、「AIR」だと思う。
見返りを求めない承認に癒される
主人公の国崎往人は、放浪者(いわゆるホームレス)である。
そんな主人公に「一緒に遊ぼう」と声をかける女子高生?のヒロインがおり、居候を許可する母親がいる。
その時点でとんでもない話であるが、人畜無害な人間がこれといった見返りなく他人に受け入れられている様子を見ることで、僕は心癒される心地がする。
当時は意識せず見ていたが、無償の愛に近いこの構図が、現実世界の承認欲求をめぐる戦いで傷ついた心を優しく癒してくれるのかもしれない、と今になって思う。
ある意味で、感動ポルノ的な作品
24時間TVが感動ポルノと揶揄されている。
マッチポンプで、障がい者を使って感動的なシチュエーションを作り上げて「ほら、感動したでしょ」とやるから、そう言われている。
「AIR」は創作物なので、現実世界になんら影響は与えないのだが、意図的に「泣いてしまうような物語を作り上げている感」はある作品だと思う。
現実にはあり得ないような極限状態を作り上げ、登場人物が人目もはばからず感情を発露するのだ。見ているほうは、思わずもらい泣きをしてしまう。
創作物にリアリティを求める人にはゲロゲロっとなる人工甘味料的な味付けであるが、共感性の高い人なんかは特に、ハマると抜け出せなくなる。
現実のエッチより作り物のAVのほうが過激で興奮できると言う男性がいるように、感動も作り物のほうが脳が悦ぶことがあるのだ。
「感動」にハマると抜け出せなくなる
お勧めの視聴方法は、夜通し鑑賞して泣きはらしてから、明け方に散歩がてらコンビニに買い物にいくこと。もはや女性誌に載せたいレベルの、心のデトックス効果がある。人気のない街を、ぼんやりと歩くのは何ともいえぬ心地よさだ。心が洗われる。
映画館で感動したときに、退場していく観客の物音や話声で一気に現実に引き戻されて、不快な思いをしたことのある人なら共感してもらえると思う。夜明けの街歩きで徐々に夢から覚めていくのである。
そして日が昇ると、容赦ない現実の始まりに絶望するわけだが…。そんな心理的なジェットコースターがさらに中毒症状を加速させる。
「君の名は。」を何度も視聴して、何度も泣いたという話をリアルでも結構聞いているが、これも一種の中毒だろうと思う。そんな人は、間違いなく感動依存症になれる才能があるので、ぜひとも「AIR」も視聴してみて欲しい。
両者は、BGMとのシンクロ率の高さや分かり易い泣き所がある点では、かなり共通項がある。「ファンタジー的な設定を受け入れて視聴する」という点も似ている。
※「君の名は。」で瀧と三葉が入れ替わるが、そんなことは現実にはありえないにも関わらず、みんな「そういうもの」として受け入れて見ている。AIRにもそういった側面がある。
AIRは麻薬だ、改めて
今回、はてなブログの企画で「アツい夏の作品を語ろう」というのがあったので、いい機会だと10数年ぶりにAIRを見返してみた。
当時の自分は若くて、いまの自分からすれば無知でアホで気楽だった。あれから10数年かけて色々経験して全然違う人間になったと思ったが、今回、やはり当時と同じように心揺さぶられてしまった。
感情のスイッチを強制的にONにさせられる物語の構造は、麻薬のようだと思う。長らく絶っていたけれど、久々に体験すると「また、こんな感動を味わいたい」と、心が渇望するのを感じた。
夏休みに感じる憧憬
「AIR」の舞台は、1日に数本しかバスのこないような海辺の田舎町だ。季節はちょうど夏休みの時期。
都会っ子の人はどうか分からないけれど、田舎育ちの僕には、海辺の田舎町というシチュエーションはとても懐かしい。
都会の分刻みのスケジュール感ではなく、午前中とお昼、夕方、夜、とざっくり4部構成くらいに1日を分けられるような、贅沢な時間の使い方をしている感じが、それだけで懐かしく癒される。
全12話で、前半はゆったりと流れる物語のペースを退屈に感じるかもしれない。前時代的なアニメキャラ然とした、キャラクタライズに違和感を感じるかもしれない。でも、相性がよければ中毒性のある世界観の虜になると思う。
実際にAIRの田舎町のようなところに住んだら絶対退屈するはずなのに、どうしようもなく惹きつけられてしまう。心が画面の向こう側に逃避したがっているのを感じる。こうした感傷も少なからず「泣き」に影響していると思う。
泣きたいなら、新海誠監督の過去作より「AIR」だ
「君の名は。」的な「泣き」を求めて、新海誠監督の過去作を見ると怪我する可能性があるのであまりおススメしない。過去作は泣きというより鬱傾向が強いので(泣き目的じゃなければ過去作も面白いけど)。
「君の名は。」を見て泣いたという人に、なぜ感動したか聞くと、ストーリーの妙をあげる人は少ない。
「〇〇のシーンで感動した。あと音楽がヤバい。」こんな感想が多い。
おそらく、場面場面で主人公やヒロインたちの感情をトレースしてもらい泣きしたのだと思う。他人の結婚式で泣けるのに似ている。共感力のなせる技だ。
そういうことなら「AIR」も場面ごとの感情の伝わりはハッキリしている。ここぞという場面でのBGMの援護射撃もある。「泣きどころ」が明確なので、独特の絵や風変りなキャラクターの性格が苦手でなければお試しいただきたいと思う。
※原作はノベルゲーム(色んなハードに移植されてる)。
ほんとはこちらを勧めたいが、アニメ版がぎゅぎゅっと凝縮されており秀逸なので、忙しい方はアニメ版でぜひ。
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