ドーナツ食べ放題企画は、ミスドの「コンビニドーナツとは勝負しない」宣言に思える。
ミスドが厳しい状況に追い込まれているようです。
ミスドの不振は一時的なものではありません。国内チェーン全店売上高は下降線をたどっています。直近5年では、12年3月期が1147億円、13年が1111億円、14年が1030億円、15年が1020億円、16年が915億円と一貫して減少しています。フードグループの営業利益は3期連続で赤字です。
コンビニドーナッツにシェアが奪われて、どんどん売上が下落したとのこと。
コンビニでドーナツの販売がスタートしたのは2015年くらいからでした。そこから1年かけてプロモーションしたとすれば、16年の売上が一段と落ち込んでいるのも頷けるような。
でもなぁ…。
ミスドファンとしては複雑な心境です。
クリスピークリームドーナツに負けるなら、納得できた
アメリカのドーナツチェーン「クリスピークリームドーナツ」。
2006年の当時、日本に進出してきたときには、長蛇の大行列ができる人気ぶりに「ミスド終了」の声も囁かれました。実際はミスドの良さが再認識される結果となり、クリスピークリームドーナツの店舗は、一時期よりも縮小傾向にあります。
ただ、ミスドがクリスピークリームドーナツに負けるなら、まぁ納得いくんですよ。同じようにドーナツショップとして店舗を構えて、対面で販売しているなかでの勝敗ですから。商品として受け入れられた方が勝ったということでしょう。
仮にクリスピークリームドーナツがミスドに勝って、店舗数が逆転していたとしても、まぁそれはそれなりに納得できる結果だったと思います。
そもそもミスドは負けてない
コンビニドーナツが広く普及して1年以上になります。しかし、ミスドよりコンビニのドーナツの方がおいしいという声はあまり聞きません。
ミスドは味で負けたわけではないのです。ただ、コンビニドーナツの登場によりニーズが細分化(晴れの日or普段使い)された結果、日常食としてのドーナツのシェアを奪われてしまったのです。
⇒なんでもいいけど甘いもの食べたい
⇒なんとなくミスド行ってた
⇒ドーナツはミスドでしか買えなかった
こんな動機でミスドを選択していたロイヤルティの低い層が、手軽にドーナツを買うことができるコンビニに流れてしまったのでしょう。
これまでライバルがいないが故に、労せず囲い込めていた顧客群がミスドから離れてしまったということです。
「ケーキ屋さんには行きたくないが甘いモノは食べたい」人たちがコンビニスイーツを買うように、ドーナツは好きだけどミスドにわざわざ行くのはめんどくさい人たちからすれば、コンビニドーナツはとっても便利なサービスとなりました。
ミスドはこれから高級化路線に転換する?
マクドナルドが一時、高級化路線を進んで批判されていました。あのときは失敗してしまったけど、でも、ひょっとするととても正しいことをやろうとしていたのではと感じます。
仮にコンビニで作りたてのハンバーガーを販売し始めたらどうでしょう。コンビニで売れる程度の価格帯で勝負していたら、ロイヤルティの低い客層のニーズを奪われ、ミスドと同じ結果になりはしないでしょうか。
100円マックには、その危険があると感じます。100円マックに反応する人たちは、値段重視で購買している時点で、もともと味に関心の薄い層ですから、手軽に買えるバーガーがコンビニにあってそこそこウマければ、わざわざマクドナルドに足を運ぶ理由はなくなります。
ミスドは「元々の価格設定がコンビニ向き」だったので、よりコピーされやすかったと感じています。
コンビニドーナツが発売される以前は「ドーナツ=特別なおやつ」だったものが、いまでは「日常食のドーナツ」と「わざわざ買いに行くドーナツ」の2つのニーズに分断されてしまいました。
ミスドが日常食としてのドーナツでもシェアを取ろうとすると、いまやコンビニと真っ向勝負しなければなりません。
しかし、日常食カテゴリーでは味の優位性はそこまで効きませんので、買い物しやすい好立地を確保しているコンビニ勢のほうが圧倒的に有利です。そもそも店舗数にも数十倍の差があります。
コンビニドーナツと勝負しないことを選んだミスドは、食べ放題を始めた
(ミスドHPより)
日常食としてのドーナツではコンビニに敵わない。では、わざわざ買いに行くドーナツカテゴリーならば、ミスドが圧倒的に勝てるかと言えば、そうではありません。
というのも最初にお伝えしたとおり、ミスドの儲けの方程式の中には、日常食としてのニーズも組み込まれています。そこが奪われてしまった時点で、現状のスケールメリットを維持するのは困難になります。これまで同様の価格でクオリティを維持するのは難しくなるのではないでしょうか。
かと言って、1000以上の店舗を展開するなかで、いまさら高級化して利益率の高い商品を売り出しても客離れが起こりそうです。マクドナルドの二の舞になる可能性が非常に高いです。
ちなみに、ダスキンは過去に高級路線にチャレンジしています。
高級ドーナツ市場にダスキンが参戦――大人のミスド「andonand」が渋谷にオープン - ITmedia ビジネスオンライン
ミスタードーナツではなく、まったく新しいブランド「andonand」を立ち上げて、これまで取り込めていなかった客層にアプローチを試みていた時期もあるのです。ただ、結果は全店舗撤退。高価格のドーナツ店が難しいことは経験済なのです。
いまミスドが模索しているのは、コンビニドーナツと競合しない新たなニーズの取り込みです。ミスドが一部店舗でドーナツの食べ放題を実施するのは、決して話題性(広告)のためだけではないとぼくは思います。
新たな来店動機をつくることで、コンビニドーナツと競合しないセグメント(イートイン)での集客増を狙っていることと、ドーナツの販売個数UPや客単価(食べ放題は大人60分1200円)をあげることでスケールメリットを維持する狙いがあると感じます。
食べ放題をうまく運用できれば、これまで売れずに廃棄になっていたであろう部分も活用できるので、利益面でもプラスに作用するかもしれません。そうでなくても、商品の回転がよくなれば、できたてを提供するミスドの優位性をさらに強化することにもつながりますしね。
他にもこんな動きがあるようです。
株式会社ダスキンと株式会社ストロベリーコーンズが業務提携契約を締結 | 株式会社ダスキン
ストロベリーコーンズというのは、宅配ピザ・パスタの「ナポリの窯」を運営する企業。業務提携の狙いもホームページに書かれていました。
【業務提携のねらい】
◆ダスキン
①夕方以降の食事需要顧客の取り込みや客単価向上でのミスタードーナツ既存店の売上高向上
②ミスタードーナツでのデリバリー機能やノウハウ、システムの活用による、中食需要の取り込み
◆ストロベリーコーンズ
①ミスタードーナツとの提携による、認知・ブランドイメージの向上
②スイーツアイテム(ミスタードーナツの商品)の拡充による売上高の向上
イートイン需要の刈り取りを強化することで、閑散時間を減らして利益率を高める戦略のようです。
販売店であり飲食店でもあるミスドにとっては、ドーナツ一本足で勝負するのではなく、店舗のリソースを幅広く活用して収益率を高めていく方向を模索しているのですね。
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飽和状態といわれる市場にあって成長を続けるコンビニ業界。成長の源泉は単純な規模拡大ではなく、他業界からシェアを奪うことで実現しています。
コンビニドーナツはただの一例にすぎません。コンビニが成長し続ける限り、近い将来、またどこかの業界が狙い撃ちされることになりそうです。
今回の件、ミスド好きとしては、一日も早い復活を期待しています。潰れかけの個人商店のように、日に日に商品の質が落ちていくような姿だけは見たくないものです。