スロースターター。
腹が米と麺を欲している。
たまにはラーメンでも食うか。
ふだんはチェーンを極力避けるが、チャーハンセットのある店はだいたいチェーンだ。
そうと決めたら某チェーン店に直行。昼時だけに店内はかなり混雑。
カウンターに陣取り、躊躇なくセットメニューを注文する。
ちょうどラーメンが運ばれてきたくらいのタイミングで、男性の一人客がぼくの隣に座った。
その男性は落ち着かない様子でメニューを手に取り、うーんと悩み始める。
店員さんがきても気にせず悩み続ける。
隣の席にいたぼくは居心地の悪さに耐えかねて、早く注文しろー 早く注文しろー。と心の中で叫び続けた。
店員さんはずっと、ぼくの真後ろあたりに立って男性が注文するのを待っている。
早くしろー。
たぶん店員さんと心の中でハモっていたんじゃないか。そんなに選択肢はないはずなのに、なぜサッと決められんのだ…。
お昼時の回転率は、飲食店の経営にとっては命。
個人的には、少しでも速く食べ、あとの人に席を譲るのがビジネス街でのマナーだと思っているが…。
男性は、待機している店員を散々待たせたあとに、ようやくセットメニューを注文した。
悩んだ末に、けっきょく普通のセットかい!
さらに、このあとの男と店員さんとのやりとりが異次元だった。
店員:「麺の堅さはお好みありますか?」
男性:「いえ、特にありません」
特にありません?
「普通で」とかじゃなくて??
こんな注文の仕方初めて見たぜ。
というか、よく考えたら店員さんの聞き方も変だ。
一般的なのは、「麺の堅さはどうされますか?」と聞かれることが多いような気がする。
微妙な違いだが、その意味するところは全然違う。
この場合、特にありません、などという回答はできない。
自分で明確に麺の堅さを宣言することが求められている。
だから店員さんの「お好みありますか」という聞き方も、それはそれで相手を混乱させてしまっているのではないのか。
昼時だったので、その後も立て続けに何人かお客が入ってきたけれど、他の店員さんはちゃんと堅さを聞いていた。
その店員さんだけが「お好みありますか」と聞き続けている。
しかし、特にありません、と答える人はいない。
ところで、ぼくがラーメンを食べ終わり、ようやくチャーハンに手を伸ばしたくらいのタイミングで、男性は颯爽と店を出ていった。
速っ!
3分も経ってないんじゃないか。
男性に「早く注文しろ」と念じていた自分が猛烈に恥ずかしくなった。
さっきの店員さんが、食器を下げに来た。
(早くしろー)
心のなかで、またハモった。
気がした…。
むぐ…。
チャーハンの残りをラーメンの汁で流し込み、ぼくはそそくさと店を出た。