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もしも「嘘のない求人サイト」があったら利用しますか?という話。

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とあるサイトから、ツイッターでメッセージをいただきました。

 

@hal_mali halmaliさん初めまして。
嘘のない求人サイトをhalmaliさんのブログでもご紹介していただけませんでしょうか?ご一考いただければ幸いです。

 

そんなワケで紹介させていただきましょう。

嘘のない求人サイト

どこの企業がそんな殊勝なことを始めたのかと思いきや、個人的に運営されているサイトのようです。

「ご紹介いただけませんか?」とのことだったので、サイトの中身もひと通り見ました。

 

そしていくつか感じたことがあったので、それを書きます。

ブラック企業や嘘の求人というのが、改めてとても解決の難しい問題だと突きつけられた心地がしています。

だから問題提起の意味もこめて紹介したいと思います。

嘘がない求人を見て、求職者はなにを思うのか

サイトには、嘘がない(であろう)求人が掲載されています。

人材関連の仕事をしており嘘の求人に慣れ親しんでいる身からすれば、目の前に広がるのは、ある種の理想郷です。

掲載されているどの求人票にも嘘がないのです。 

 

しかし、求人を見た僕の気分は複雑でした。

 

確かに嘘がない求人は安心です。 

ただ、応募したい求人であるかと言えば、それはまた別の話。待遇が十分でなければ、仕事が魅力的に見えなければ、求人への応募は集まらないでしょう。

みんながみんな無農薬の野菜を選ぶわけではないのと同じですね。人為的に作られていたとしても、色つや形の良いほうがやはり食指は動きます。

 

「嘘のない求人」を目の当たりにすることで、僕は改めて転職の本質に向き合わざるをえませんでした。

誤解をおそれずに言えば、多くの人は本質的には、求人に嘘があること自体がダメだと感じていないのかもしれないということです。

 

わかりやすく言えば、A社が本当は月給50万円なのに月給46万円と書いたとしても、元の水準が高いので、そこまで憤りを感じないのだろうなぁと思ってしまいました。

 

多くの人がゆるせないのは、黒を白に見せる嘘だ

つまり、多くの人がゆるせないと感じる求人の嘘とは、年間休日が本当は80日くらいなのを120日といったり、月給20万と書いているけど実際は16万円くらいだったり。

 

「本当のことが分かっていたら応募しなかったのに!」

 

という求人の嘘に対して、激しい怒りを感じているのだろうと改めて感じました。

 

20万円からの16万円と、50万円からの46万円では、おなじ差額4万円でも生活者にとってのインパクトはまったく異なります。

さきほど書いたA社の例は、いずれにしても水準以上の待遇です。表記は虚偽だったかもしれませんが、高待遇の会社であるという定性的な評価は変わらない人も多いのでは?

 

給与額という定量的な部分が虚偽でも、自分のなかでの「高待遇である」という定性的な評価に相違なければ、多くの人は納得するのです(細かいことでゴネて転職をふいにするのはもったいないしね)。

 

 

求人に嘘を書く理由

実は何年か前にこんな記事を書きました。

 

求人広告の内容が嘘だらけになる理由。

要因は大きく3つで、平たく言えば「採用競争の激化」「クライアントのモラルの欠如」「広告会社の営業都合」です。

 

せっかく広告を掲載しても、待遇の低い会社には応募が来ませんから、少しでもよく見せたいわけです。でもA店が待遇を水増しすると、誠実に募集していたB店に応募が来ませんね。じゃあB店も少し待遇を水増しします。するとC店が…。

と高速道路の渋滞のように、1つの会社が嘘の求人を掲載すると、玉突きでどんどん嘘が連鎖していきます。

下流にいくほど、そのしわ寄せは大きくなります。

 

ところで大手企業も、大手同士で激しい人材獲得競争をしています。

それでも虚偽求人が問題になりにくいのは、「そもそも高待遇なので、多少の齟齬があっても文句が出にくい」「社会的信用が重要なので、無茶な嘘は書けない(嘘ではなく「盛った」の範疇)」からなのでしょうね。

 

求人の嘘がなくならないのは、求人の嘘でダメージを受けるのが弱者だけだから

もともと高待遇の世界で生きている人たちは、多少の浮き沈みがあったとしても生活が揺らぐことはありません。

転職するといっても、大企業を中心とした優良企業の間をグルグルまわっているだけですから、求人に多少の嘘があろうが大した影響はないのです。

そもそも大手企業が求人で嘘をつくメリットよりデメリットのほうが大きいわけです。

 

一方で、まともな待遇を提供できない中小零細企業ほど離職が激しく、たくさん求人広告を掲載します。民間の求人サイトは営利目的で運営していますから、当然、多少のグレーな求人には目を瞑ります。自浄作用には期待できません。

 

こうして結局、嘘の求人に当たってしまうのは、社会的信用の低い会社にしか応募できない転職弱者なのです。 

 

 

「嘘がない求人」と「誠実な求人」はイコールではない

実際にいくつかの求人の詳細を見ました。

とても事細かに諸条件が記載されています。

通常の求人ではありえない、「体力に不安のある方は採用が難しい」といった記載もあります。

年間休日も「確約」と書かれています。有給休暇についても、はっきりと取得可能な日数が記載されています。

法令違反ギリギリのグレーな表現に冷やりとさせられるものの、応募する側からすれば無駄足を防げるメリットがあります。

細かな表記の問題については、サイトが個人運営であることもありここでの言及は控えます。

 

一方で、募集要項には未記入の項目も目立ちます。

嘘のない求人サイトでは、嘘が書けない故に都合の悪い部分については「未記入」という手段をとらざるを得ません。

しかし、じゃあ未記入という対処法は、果たして読者に対して誠実なのでしょうか。たしかに嘘ではないかもしれませんが、都合のわるい部分を伏せている、と疑う気持ちも芽生えます。

 

求職者が本当に求めているのは、嘘を書かないことではなく、会社情報をできるかぎりガラス張りにすることです。

いいことも悪いことも、隠し立てせず誠実に公開してほしい。それが仕事を探す人の本音だと思います。

 

求人サイトに求められる機能

ところで、IPO関連でなにかと話題のWantedly(SNSを通じて人と企業をマッチングさせるサービス)では、募集要項に給与を表記しないことを推奨しているらしいです。

そんな乱暴な手法が成立するのは、Wantedlyに掲載されている企業にメジャーどころの企業やIT系企業が多いからです。

 

求職者としては(生活に困らない程度には、給与が出ることはわかってるorコーポレートサイトの情報で諸条件は分かる)から、あとは(肝心の仕事内容や社内の雰囲気はどうなの?)という、一番知りたいソフト情報が手に入れば、スムーズに転職の意思決定ができる仕組みになっているんですね。

IPOやDMCAの件で色々叩かれてはいますが、マッチングの観点では、Wantedlyは非常に優秀な求人サービスだと思っています。

 

なぜここでWantedlyの話をするかと言うと、求人で大事なのはマッチングだからです。

求職者と企業をマッチングさせるためには、企業の魅力をしっかり発信して求職者に届けなければいけません。ハローワークの求人情報のように、諸条件を羅列しただけではマッチングの精度はとても低くなります。

 

うまくマッチングできないと、入社した人が早期離職したりメンタルヘルスに問題を抱えたりします。そうでなくとも、働く人が十分にパフォーマンスを発揮できなければ、企業にとっては痛手です。

 

「嘘がない求人」はスタートラインなのだ

求人情報に嘘がないなどと言うことは、本来、当たり前に叶えられているべきもので、あえて売りにするような事柄ではないはずです。

重視すべきは、いかに相思相愛の関係をつくれるか、納得感をもって働くことができるかです。求人に嘘がないだけでは真の問題解決にはならないのです。

 

もちろん「嘘のない求人サイト」が不要と言いたいわけではありません。

病人が味よりも栄養を優先するのと同じで、いま苦しんでいる人のなかには、とにかく正確な情報を求めている人もいると思います。それで結果、救われる人もいるのでしょう。

 

ただ、いかんせん個人の力には限界があるようにも見受けられます。

ぱっと見た限りでも、サイトデザイン、求人情報の見せ方、求人情報の絶対数。課題は山積みです。応援したい気持ちとともに、諦めに似た感情や無力感も覚えます。

このサイトが果たそうとしている役割は、本来ハローワークが担うべきもののはずなのに…。そんなことも思いました。

 

ひょっとすると、こういう地道な活動が他にもどんどん広がって、その中からやがて法人化するようなサイトが出てくれば、、、現状を打破できる一助になるのかもしれません。

大手数社の寡占状態が続き、転職の本質とかけはなれた、売上と価格の競争ばかりが激しくなる現状には、業界のいちプレイヤーとして危機感が募るばかりです。

 

 

うーん…、やや批判ぽい記事になってしまったかも(汗)

ただ、嘘の感想を書いてもしょうがないので、こんな感じでご勘弁を。

志に共感する一方で、現実の厳しさも突き付けられた。これが僕の素直な感想です。

読んだ方が求人のありかたについて何かしら考えるきっかけになれば幸いです。

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