相棒 season17 3話「辞書の神様」 感想:言葉を愛する3人の男たち
前半と後半で、ガラリと色合いが変化する展開でした。
前半は、杉下さんの「まじまんじ」発言のような笑いを誘う一幕や、辞書の一説を暗唱するという、杉下さんの偏執ぶりが際立つ相棒らしいシーンが目立ちました。
コミカルな回なのかな、なんて思っていたらお間違い。
杉下さんが久しぶりに、激おこ
中盤から杉下さんの態度が変化してきます。
象徴的だったのは、青木がいつものように生意気な態度をとって、捜査情報を出し渋ったときの杉下さんの発言。
「君と冠城くんは警察学校の同期かもしれませんが、僕はいま君の上司ですよ。
さっさと言いなさいよ。」
字面だけ見ると、そんなでもありませんが、ドスを利かせた声で迫る杉下さんはなかなかに迫力がありました。
(杉下さんの発言に怯える青木)
いつも穏やかな杉下さんが、たまにヒートアップするときがあって、今回は珍しくその一端が垣間見えたように感じました。
ファンの方ならおなじみですが、前シーズンで冠城に「想像が及ばないのなら、黙っていろ!」と怒鳴りつけたのは、まだ記憶に新しいですよね。
これは久々に杉下さんの暴走の予兆か?
と思っていたら、次回4話の予告が久々に杉下警部の狂人ぶりが発揮される回のようで、末恐ろしかったわけですが、いまはとりあえず3話について語ります。
相棒にしては珍しい、感動的なストーリー
というのも、3話は相棒には珍しい、じわりと心温まる物語だったんですね。
『千言万辞』という、ユニークな解説が評判の辞書があり、その主幹である大鷹(森本レオ)は、編集の道半ばでアルツハイマーを患います。
出版不況の折、辞書の原作者がアルツハイマーになってしまっては、辞書の制作が打ち切りになってしまうかもしれない…。
そこで関わる編集チームの人たちは、それを隠して出版にこぎつけようと頑張るんです。
アルツハイマーを患う大鷹先生にとっては、おそらく最後になるであろう『千言万辞』の編纂をまっとうさせてあげるために。
編集チームの中でも、最初は犯人かと疑われた、大鷹先生と対立関係にある国島(森田順平)教授の存在が光ります。
『千言万辞』の編集担当であった男性が殺害され、犯行に使用された凶器から、犯人候補として大鷹先生が浮上するのですが、国島教授は、大鷹先生を庇うんですね。
実は大鷹先生は無実なのですが、それを知らない国島教授は自首してしまいます。
犯人もまた、言葉を愛する者の一人であった
犯人は、『千言万辞』と対局の存在である、正統派の辞書『文礼堂国語辞典』を愛する和田部長。
自分の愛する『文礼堂国語辞典』は廃刊させられたのに、もう一つの邪道な辞書『千言万辞』が出版されることに納得がいっていなかったのです。
しかし皮肉なのは、犯人である和田部長もまた、言葉を愛していた点においては、大鷹先生に勝るとも劣らない人物だったことでしょう。
一方で、国島教授の存在が際立っていたのは、世間体にとらわれず自分の好きな辞書作りに没頭する大鷹に嫉妬しつつも、言葉を愛する大鷹先生の信念に共感し、アルツハイマーの大鷹を助け、結果的には、殺人容疑まで被ろうとしたところです。
大鷹と和田と国島、言葉を愛するという点では共通している3人ですが、和田は殺人者となり罪を大鷹に被せようとし、国島はその大鷹を庇おうとしました。
この行動の差がなんだか、愛と言う言葉の解釈が人それぞれ異なるように、同じ想いを持っていたとしても、人の行動がそれぞれ違ってしまうことの説明になっているような気がして、うーむと唸らされました。
大鷹先生は、愛という言葉の意味を、冒頭の杉下さんとの会話のなかで、こんな風に説明しています。
「愛というのは、ふり向いても、ふり向いても、またふり返ってしまうという、せつない心なんだ」
和田が愛した正統派の辞書、文礼堂国語辞典では、「愛」はどんなふうに説明されていたのでしょうね…。
エピローグで、
完成した『千言万辞』を前にした大鷹は満足気に見えます。
編集チームの面々に囲まれ、震える手で辞書をめくる大鷹の姿には、目頭が熱くなりました。
人間の生きざまが伺える、今回のような相棒もいいですね。