「DESIRE remaster ver」感想(ネタバレあり)
2019年4月にアニメ化される「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」と作者が同じ(菅野ひろゆき)であるアドベンチャーゲーム「DESIRE」の感想です。
元は18禁のゲームなのですが、アダルト要素がカットされたリマスター版もあったのでそちらをプレイしました。
あらすじ
物語の導入は、記者の主人公アルバートが、孤島にある謎に包まれた研究施設「DESIRE」を訪れて真相に迫る、という筋書きです。
謎めいた何かがあって、それを解き明かしていく展開は、個人的に好きなシナリオのパターンのため、僕は読み始めてすぐに夢中になりました。
コマンド選択式で読み進めていく、ゲームシステム
いま遊ぶには、いささか古い仕組みです。
●見る・調べる
●移動する
●話す
といったコマンドを選択しながら、物語を進めていく形式のゲームです。
そのため、いわゆるノベルゲームとは文体も大きく異なります。
主人公が何かアクションをしたり発言したことに対して、相手のリアクションが返ってきて、また次のコマンドを入力すると、それに応じたリアクションが返ってくる…この繰り返しです。
シナリオを進めるために必要なコマンドは決まっているため、総当たりで順番にコマンドを試していくような読み方になります。
サクサク読みたい人にはめんどうなシステムですが、時間に余裕のある方は、ハズレの選択肢も含めて楽しんでみても良いかもしれません。
僕はシナリオを純粋に楽しみたかったので、途中からはヒントモードを活用して正解のコマンドのみを入力してサクサク進めました。
DESIREは、いわゆる「フラグ」や「分岐」がない一本道のシナリオであるため、物語を楽しみたい方にはヒントモードの活用を断然お勧めします。
ヒントモードがないバージョンをプレイした方の感想の中には、めんどくさい、テンポが悪い、といった内容も見受けられましたが、僕は答えを見ながら進められたので、会話中心に展開されるシナリオに対して、むしろテンポが良い印象を抱きました。
20年以上も昔の作品だが、いまでも鑑賞に耐え得る名作
ここからは物語について。
まずはネタバレなしであっさり書きます。
オリジナルは1990年代に発売された作品ですが、いまプレイしても新鮮に感じたし面白かったです。
謎の研究施設に降り立って島を探索するという設定にワクワクする人であれば、ほぼ間違いなく楽しめる内容だと思います。
謎を解き明かすために探索すればするほど、かえって疑問が沸きあがってくるシナリオのため、物語にグイグイ引き込まれていきます。
主人公が記者の設定で、相手の言葉尻を捉えるのが上手なんです。
島で働く研究者などに質問したとき、相手が何かをはぐらかそうとしたことに気づいたり。そこでさらに質問をかぶせて痛い所を突いてみたり。
会話のやりとりに緊張感があって退屈しません。どんどん話を読み進めたくなります。
出てきた疑問点に関しても、最終的には、一部を除きそのほとんどに一応の答えが示されるため、消化不良に陥ることがないのも美点でしょうか。
読み物の余韻としてのモヤモヤは残りますが、不納得の意味でのモヤモヤはほとんど残らないシナリオだと思います。
ノベルゲームはいわゆる「萌え」を強調した学園設定のほのぼのしたのが多いため、本作のように独自の世界観を作り込んだハードな作品は希少です。
あまりチャレンジされてこなかった分野だけに、本作「DESIRE」がいまでも依然としてトップクラスの作品に感じられてしまうのは幸か不幸か…、複雑な心境ですね。
というところで、ネタバレなしの感想は終わりにします。
ネタバレありの感想
ここからはネタバレありの感想です。
知っている前提で進めるため、説明抜きで感じたことをズバズバ書いています。
アルバート編について
物語導入でのワクワク感は、ネタバレなしのほうに書いたとおりです。
特に事前情報なしでプレイしていたため、探索に失敗すると、ひょっとしたら主人公が殺されてBADエンドの展開もあるかもしれないと思って読んでいました。最初は。
ただ、途中からはどうやら主人公が危険にさらされることはなさそうな気がしてきて、そこで一回、緊張の糸が切れてしまった感はありますね。
お子ちゃまのティーナがくっついてきて、探索が滞るところも、言っては悪いけど、僕には退屈でしょうがなかった。主人公はそうでもない反応でしたが。その点は、ティーナにイラついていたマコトのほうに共感を覚えました。
あと八方美人すぎる主人公の会話がちょっと見ていてつらかったですね。この点はもともと18禁ゲームであることの性なのでしょう。
表面上好き好き言っているだけなら良いんですが、まぁまぁ本気で一人ひとりに愛をふりまいていたので、なんだかなーと思いつつも、そういうもんだしなぁ様式美だしなぁ、と流す気持ちも半分。
物語前半は、設定に対するワクワク感とそれが期待通りに履行されないもどかしさとのはざまで悶え苦しんでいたというのが本音です。
本格的に面白さにエンジンがかかってきたのはLAST DAYあたりからですね。
具体的にはクリスさんがお亡くなりになるあたりから、一気に緊張度のレベルが2段階くらい引きあがりました。
どうせ安全だと思っていたところから一転、もしかすると…、という緊張感が生まれてその後のコマンド選択は手に汗握りました。
しかも立て続けに、クリスを撃ったカズミさんからの真相告白があり、さらにそのカズミさんが殺害されるという急展開。
犯人と疑われて部屋で謹慎している間に、さらにレイコさんが殺害され、しかもカズミさん殺害の犯人はレイコさんだという。
ちなみにこの時点で、レイコさんが犯人、と言われて、まぁそれなりに整合性はありそうに見える点が良かったですね。直感では絶対違うと感じつつも、完全に否定しきれない点が、この後に続くマコト編への期待感を高めてくれました。
最後のティーナとの6年間の生活は、最初は突然画面の色がセピアがかった状態になり、どういうことだと疑問だらけになるわけですが…。
アルとティーナ、2人だけのDESIREでの生活が延々と描かれます。主人公が呑気に魚釣りなんぞも始めます。
状況に慣れてくると、途中からは初見だと退屈にも感じられてくる点がポイントなのでしょうね。すべてクリアした後には、この平凡で退屈な日常の描写を読み返したくなること必至なわけですが…、最初に読んだ時点では、これで話をどう収拾させるのだろうと不安も感じつつ読み進めていました。
最後は、主人公だけが元の世界に戻ってきて物語は終了。
感想は正直にお伝えするとこんな感じ。
”えーっ?! これで終わり?? 嘘でしょ。”
はい、ちゃんと2周目が用意されていました。ホッ。
アルバート編は謎の提示が主な役割なので、この時点ではほとんどの謎が消化不良の状態で終わってしまいました。
マコト編について
アルバート編を受けて、2周目はアルの彼女であるマコトの視点から、もう一度、DESIREでの一連の出来事を見ていきます。
ネットではたいして謎が解消されないと、一部不評もあるのですが、僕はそんな風には感じませんでした。
アルバートの視点から見たときに、煮え切らない態度だったマコトの心情だったり、DESIREの技術主任という立場がマコトの行動に与えていた影響を知ることができました。
問題だったレイコさんの死の真相も知ることができました。
まぁこのあとマルチナ編でさらに事件の裏を知ることができるため、この時点でわかるのは、あくまでマコトの立場で知り得る範囲ではありますが…。
この点については、真相への関与度が、アルバート<マコト<マルチナとなっており、ちょうど中間に位置することが原因かと思われます。マコトの視界から見える真相が、ユーザーから見るとやや中途半端に見えるのは、いたしかたないのだろうな、と。
あと、ネットの感想を読むと、どうやら18禁版ではエロだらけのシナリオだったみたいですねw 読んでいて「あーここはそうだろうな」という箇所がたくさんありました。
催眠術の設定が18禁版にはなかったものとは後で知って驚きました。
この催眠の部分、あっさりと催眠術にかかるヒロインがどうしょうもなさすぎて、読むのが苦痛でした。1回目の催眠以降は、カイルが出てくるたびにうんざりしていました。しかも結構な頻度で出てくるんだこいつがw
さて、不評を買っている催眠術についてですが、これはコインを糸でたらしたお馴染みのアレを使うから、よりチープに見えてしまうんだと思いますね。
本筋のほうでは、遺伝子操作やタイムマシンのようなSFチックな、ある意味トンデモな装置が登場するわけだから、催眠術の装置も何か特別なものを設定として作ればそこまで酷いことにはならなかったんじゃないでしょうか。
カイルがらみでもう1点言うなら、最後はカイルが多少ナイスガイっぽく描かれますが、全部読んだいまでも半信半疑です。こいつは本当にマコトのことが好きなのかどうかがイマイチよく分かりません。
18禁版ではピロートークで、もうちょっとお互いの理解を深めるような会話がなされていたのでしょうかね?
いままで世間体なども含めて頭で恋愛してきたマコトが、ある種、本能的な部分で本気の恋をしたのがカイルだった、と素直に解釈したいところですが、そうするには、カイルがあまりにゲス野郎でしかないのが見ていて疲れるところです。
マルチナ編について
マルチナ編では、ストーリー全体の真相が解明されます。
研究の渦中にいるマルチナの視点で描かれるため、これまでの疑問がこれはもう見事に次々と解明されていきます。
これまでアル編とマコト編で見てきた各シーンで、マルチナが何を考え発言していたか裏側が全部見られます。
もうここからは文字通り夢中になって読みました。
マルチナ編は選択肢がない完全な1本道のシナリオであるため、より内容に集中できます。
ただ、グスタフの研究していた遺伝子操作というのが具体的にどんなものかというのだけがよく分かりませんでした。特に副作用についての説明といいますか。クリスさんがおかしくなってしまった理由などは、説明がいい加減なまま終わります。
まぁ本筋とはたいして関係がないので、そこまで気になることもありませんでしたが。
細かい点が気にならなかったのは、ティーナがマルチナと同一人物であるという事実の開示が衝撃的すぎたことも影響していますね。たぶん。
ティーナ=マルチナであるとすると、僕が捜索の邪魔だと感じた、アルに懐いてくるティーナとのやりとりやアルバート編で2人きりで6年間DESIREで生活するちょっぴり退屈なシーンなどが、実はかけがえのない素晴らしき日々であったとプレイヤー側の価値観が一変させられます。
脳のメモリーにある取るに足らない些末な記憶が、過去にさかのぼって次々とポジティブな記憶に書き換えられていく快感は、他では得難いものがあります。
ただ、菅野氏の作品を何個かプレイしていたことと、それまでのマルチナの発言内容などもあって、ほんのりSF系の真相は予見してしまっていたので、本来であればもっと衝撃を受けていたのだろうとは思います。
最後。エンドロールでTo be continued foreverと表示されると、あまりの虚無感、救われなさに放心状態に陥りました。foreverって…。
菅野作品はいくつも遊んでいますが、プレイ後はだいたいの作品でこうなります。ただ、本作はその中でも一番の放り投げられた感がありました(良い意味で)。オールクリアした手ごたえがなさすぎるんです。
作品のコンセプトとして、繰り返しの運命に捉われたマルチナの存在があるために、そうなるのでしょうね。この鬱々とした読後感は、毎度のことながら癖になります。
マルチナ編クリア後に、後付けで作られた一応のハッピーエンドが見られたのですが、あまりしっくりきませんでしたね。
僕にはハッピーエンドだとは思えなかったです。
どの次元に存在するアルとティーナもすべて同一の人物と見なせばハッピーなのかもしれませんが、ゲームをプレイした人の多くは、自分の分身として関わっていたアルとティーナが、元の世界の延長線上でハッピーになる運命はなかったのだろうかと、そんなことを考えてしまうのではないでしょうか。
個人的な妄想(こんなシナリオでも良かったのに、という話)
アルバート編の前に、ティーナが出てこないシナリオが1本あっても面白かったような気もします。
そのシナリオを経て、アルバート編をプレイするとティーナが登場する(もちろんティーナ=マルチナとは明かさずに)
ティーナの登場により、これまでと事態が少しずつ変わっていって、最終的にはマルチナの運命を変えることができる。
つまりこの場合は、永遠にはループしないお話になってしまうわけですね。
似たような話を2回読むことになるので、ダレてしまいそうな気もしますが、まぁ妄想ということで。
あと別のゲームなので言及は避けますが、YU-NOをプレイするとDESIREのSF設定の解釈に多少納得がいきやすくなる感はありました。アル編で夢にティーナが出てくることとか。
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