MUSICA!(体験版)感想|こんなにもパソゲーらしいパソゲーは、これでもう最後かもしれない
OVERDRIVE最終作「MUSICA!」開発プロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
クラウドファンディングで8500万円以上集めた!
と、ゲームの体験版が話題になっているのを見つけて、冷やかし半分で遊んでみた。
最初はすこし読んだら閉じて寝るつもりだったんだけど、結局、最後まで読み切ってしまった。翌日が休みで良かった。
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細かい設定の説明は省略して書くと、作中に花井さんというバンドマンの登場人物が出てくる。
で、この人が音楽について、実に冷めきったことばかり言う。
それは音楽に対する価値観をひっくり返すような内容で、あまりに危うすぎて、刺激的で。花井さんから目が離せなくなっていく。
というのは僕の感想でもあり、主人公の心情でもある。
「……おれはね、世の中には本当は凄い音楽なんかないのかなって思いはじめているんだ。」
ライブハウスに向かう車中で、花井さんの独白を聞いたときに、不思議となぜか”こうなる”ことが予期できていたのは演出やテキストのなせる技なのだろう。
こうなる、というのはネタバレなので書かないけど、それなりに衝撃的な結末なのに、まったく僕は驚かなかった。
結末だけは誰もが簡単に予期できる展開になっている。
というかバンドマンが解散したら、次に世間を賑わすことと言えばこれしかない。
でも、一方で花井さんの選択について、まったくプロセスが見えない。
その片鱗が車中での、音楽に価値はない、という独白なのだけど、完全に結論を出せるほどの情報量ではないので、読み手としては飢餓感がある。
おそらく核心にふれることができるであろう、花井さんからのメッセージを読む手前で、体験版は終わってしまうのだ。
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音楽に価値はあるという主人公に、花井さんはある楽曲を聴かせた。
病に伏した不遇の天才ピアニストが、最後に弾いた一曲だ。
聴くに耐えないひどい演奏だが、主人公はピアニストの気迫を感じると称賛する。
そこで花井さんが真実を告げる。
その演奏は、親戚の3歳の女の子がでたらめに弾いたものだ、と。
花井さんは音楽に価値なんてないと言う。
そのストーリーや売り方やアーティストの雰囲気や。色んなものが影響して、聴衆は勝手に価値を感じているだけなのだと言う。
「音楽の与える感動ってのは、受け手の持ってるものと曲が与えるものが一致したときだけ発揮される相対的なものなんだ。」
花井さんが言う理屈は、実はそんなに物珍しいものじゃない。と僕は思う。
演劇論とか、創作関係の本なり記事なりを読んでいると、一定間隔で目にする話題ではあるからだ。
でも、物語のなかで改めてこの議題を突き付けられたときに、僕はワクワクしてしまったし、花井という人物がどんなプロセスを経てその考えに至ったのかを知りたいと思ってしまった。
主人公と同調して、18歳の僕に戻って、花井さんの語る「音楽とは」に心酔するのがとても心地よかった。
いつの頃からか、ノベルゲームはリア充化していってしまい、テレビドラマの内容と大差がなくなってしまったけれど、久々にこんなに青臭い作品に出会って、やっぱりノベルゲームは独特だなぁ、楽しいなぁと思えた。
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僕は作品が無事に発売されたら、間違いなく買うと思う。
なんならすぐにでも予約しようと思ったけど、まだAmazonにはなかった。
体験版のなかで提示された議題に対して、どんな答えが提示されるのか。
ぜひ見てみたい。
ただ、ちょっと怖いなと思うのは、MUSICA!の体験版が、あまりに深遠なものを読者に期待させすぎているところ。
僕が知る限り、このやり方で読み手を唸らせる答えなり、物語の結末なりを提示できた作品は、過去に数えるほどしかない。
最終作でこんな難易度の高そうな取り組みをするなんて。
しかもクラウドファンディングで多くの期待を集めている状況で。
最高にロックだと思ったし、OVERDRIVEというブランドの生きざまを見届けたいという気持ちにもなった。来年の発売を楽しみに待とう。
◎体験版はこちらからどうぞ